あたらしい改革ができる。だから農業はおもしろい

Cあたらしい改革ができる。だから農業はおもしろい

 谷口浩司さん(1961年生)は、久保田地区に住む。妻と父の三人で「一町あまり」(115アール)の畑でウメを栽培する農家だ。 
 谷口さんは、少年時代から将来は農業をすると決めていた。「自然のなかを動き回るのは楽しい。自由でいい」と感じていたという。畑仕事をする両親のそばに、いつも幼い自分がいた。高校卒業後は、当然のようにかつらぎ町にある和歌山県立農業大学校に進み、果樹を専攻した。2年間の勉強を終えようとするころ、谷口さんは悩む。谷口さんは次男で、三人兄弟の末っ子。「家は長男が継ぐのが普通」の時代だった。私立大学に通う兄と話し合った、「お前がするならばすればいい」、その言葉に感謝した。「兄貴すまん」それから20年あまりの歳月が流れる。

 ウメづくりの1年は、12月の剪定からはじまる。1月半ばから2月に、花は開花時期を迎える。園内をハチが飛ぶのも、この季節である。南高梅は自家受粉しにくい、ハチが交配の媒介役を果たす。花の季節が終わり、3月中旬になると、2週間おき程度に消毒作業がおこなわれる。そして、5月下旬ころに、まず古城の収穫がはじまり、それが終わる6月10日から7月10日頃までの1か月間は南高梅の取り入れを迎える。 

 谷口さん宅では、古城と南高梅の2種類を栽培している。古城は梅酒やウメジュースに適した品種で、「青ウメは青くてつやがあり、濁りがなく、琥珀色の透明の梅酒ができる」。畑には、樹齢50年から60年の古い木もある。
 「帽子1杯の古城の青ウメで、作業員の日当が払えた。(傾きかけていた)家は古城で持ち直した」、谷口さんが父(1933年生)から聞いた古城にまつわるエピソードだ。大事にしたい木が、農家にはある。 谷口さんは、ウメとミカンを柱にした経営はいまのところ比較的安定しているとみている。しかし、農業を取り巻く環境はきびしく、社会情勢は先行き不透明である。それだけに、「一層いいもの、売れるものを作る必要がある。そうしないと、置いて行かれる」。
 農業の魅力は、「自分が社長。思うように、あたらしい改革ができること。だから農業はおもしろい」と谷口さんは笑う。挑戦してみたいこともある。「高校を卒業する長男が、『家をやる』と言いましてね」、目は親子三代で農業をする明日をみつめている。「この地域は、生き残れる力があるのです」。その言葉は、力強さがあった。