秋津野未来への挑戦−公民館は、こどもとおとな、地域をつなぐ

●公民館は、こどもとおとな、地域をつなぐ

 公民館が取り組んでいる事業に、「学社融合」事業がある。そのひとつが、農業体験学習の実施である。地域内にある各団体と連携をとり、小学生に農業体験の機会、場をつくろうという取り組みである。もうひとつは、公民館活動の教室やサークルで学ぶ住民が、学校に教えに行くというものだ。
 農業体験は、J A 紀南青年部上秋津支部の協力で、農家がミカン畑やウメ畑を野外学習の場に提供している。農業青年のボランティア参加をふくめ、のべ人数にすると年間300人以上のこどもたちが畑に入り、作物を育てつくる世界を学んでいる。また、老人会は野菜作りをしている高齢者が学校を訪れ、野菜作りを指導する。公民館がコーディネートし、いろいろな分野の、いろいろなひととこどもの結びつきが企画されている。

 公民館が、こどもと教育の問題にも積極的に取り組むのには、理由がある。こどもをめぐるこんにちの問題だ。マスタープランづくりにあたり、「こどもと教育」が重視された。静かな農村風景が色濃く残るこの地域においても、都市部のこどもたちと変わらないすがたがある。調査結果から、上秋津のこどもたちについて報告する。
 塾通いは、都市部のこどもたちと変わらない。中学生では78.2%、約8割がだいたい1週間に2日から3日、学習塾などに通ったり、家庭教師に習っている。4日から5日、毎日という中学生もいる。夜間の外出は中学生になると増え、その割合は大阪郊外の中学生と変わらない。
 食生活上の問題点も浮かび上がった。上秋津のこどもたちの3人に1人は、必ずしも毎日朝食をとっていない。しかも、相対的にコンビニエンスストアなどで朝食を買っている傾向が強い。食料生産地域でありながら、である。
 また、悩みごとや心配事の相談できるひとに関する質問では、上秋津の中学生は相対的に「相談できる人」が少なく、父親も母親も相談相手としてあまり“あて”にされておらず、「孤独」のようにみえる。「全国で起きているこどもの問題は、上秋津でも起きており、起きる可能性がある」のだ。
 学校、父母などでつくる校区協議会、公民館はこどもの教育の場に加わっている。「地域と学校が一緒になって、こどもたちの問題をいかに解決していくか」、そう考えるからである。いろいろなひとが住む「混住化社会」へと地域が変貌するなかで、子育て支援的な役割を、公民館は担いだした。
「ひとの顔が見える」地域社会、そのなかでこどもを育てたい。「学社融合事業」はそのきっかけづくりの取り組みなのだ。

「こどもが自然とふれあう機会が多くなった」「町であっても、地域のひとにあいさつができるようになった」「仕事をするひとに、声をかけるすがたがみられる」という。「地域で見守られているという安心感が芽生えてきている」学校関係者の声である。