「味に一番うるさい」のが農家。だから味に自信

A「味に一番うるさい」のが農家。だから味に自信

 「食味がいいのと、適度な酸が残る甘さ」。上秋津で収穫される温州ミカンは、内側の袋が薄いのが特徴で、口に入れると舌の上で皮が溶けていくのを覚える。糖度は12度ほど、この甘さとわずかに残る酸味が絶妙に調和したのが、上秋津のミカンだというのである。
 このことを教えてくれたのは、地元河原地区の農業木村則夫さん(1955年生)。木村さんの家では妻と木村さんの父の三人で、自宅と高尾山の山麓から中腹にかけての約2ヘクタールの畑で柑橘とウメを作っている。栽培面積の70%は柑橘類、残り30%がウメという柑橘農家だ。
 朝は8時頃から畑に出て、夕方5時頃まで作業が続く。「ミカンの花は、オレンジ系のバレンシア、ネーブルから咲くんです。蜜がよく出ると、香りがいい」、毎年4月後半から5月上旬にかけてはミカンの香に抱かれての仕事になる。 いまは農業とともにある木村さんだが、「農業は大嫌い」だったという。休みがない、労働時間が長い、仕事がきつい。「3 K職場」にくわえて農業の後継ぎとして期待する母にたいする反発もあった。 農業科のある高校に進学したが、卒業すると大手農機具販売会社に就職しサラリーマンになった。和歌山市などで16年間機械整備や販売の仕事をしていた木村さんが、自宅に帰り農業を継いだのは1992年(平成4年)のことである。「老い、体の不調を訴える親のすがたがきっかけになった」。そして、理由はそれだけではなかった。「心の底では農業が好きな自分がいた」。 木村さんのミカン畑では、「主力品種は作らず」、多品種のミカンを作る。「一年を通して仕事があり、収入が保障される」。温州ミカン、ポンカン、清見オレンジ、バレンシア、三宝柑、そしてハッサク。これらを収穫する合い間の6月は、南高梅の収穫時期でもある。

 地域でメデイア研究会会長をつとめる木村さんは、1999年に自分の農園のホームページを開設した。そして、インターネットでの販売をはじめたところ、売り上げが着実に伸び出した。リピーターの増加とともに、「消費者から教えてもらう情報が参考になり、刺激になる」。 「ミカン市場はいまいっぱいだ、そのなかで一番になるのは難しい。付加価値を考え、売れるモノを売る努力をする時代」。木村さんが始めようとしてる挑戦がある。出荷時期を見直し、自分がおいしいと思ったときに出荷する。「おいしい時期にこそ、本物を食べてもらう」販売方法である。自信はある、「味に一番うるさいのが、その味を知っている農家の自分だから」だ。