秋津野未来への挑戦−おわりに


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おわりに

 和歌山大学経済学部助教授鈴木裕範
 
本誌は、田辺市の地域づくり組織である秋津野塾・上秋津マスタープラン策定委員会が2002年10月に作成した『マスタープラン』の内容について、より多くのひとに読んでもらうことを目的に企画された。『マスタープラン』は、農業経済、生涯教育、地域計画、景観環境、地域づくりなどを専門とする大学関係者らによって、多角的な視点から上秋津について掘り下げ、A 5 版167ページにまとめられている報告書である。その内容について、できるだけ多くのひとに伝えたい、と考えたところに刊行の意図がある。

 構成は、一二章とした。上秋津という土地を知らないひと、住んでいるけれどもあまり知らないひとのことをも念頭において執筆した。上秋津の位置、地域の特徴、歴史・自然・産業にかなりの紙面をさいたのは、そのためである。

 田辺市の一地域である上秋津地域では、地域の農業、生活基盤であり文化である農業と農村の景観を大切にした地域づくりに取り組んできた。秋津野塾を中心とした活動は、本文で何度も繰り返し述べたように、「地域のことは住民が考え決定する」という自立したひとたちが、知恵と工夫で、行政や外部の力を借りながら住み良い地域社会をつくっていこうとしている点に大きな特徴がある。また、すぐれた地域づくりの先進地に学びながら、「モノまね」ではなく、地域の歴史や文化、風土に根ざしたものをつくりあげようとしているのも、特徴だ。筆者はこれを「らしさ」の地域づくりと呼ぶ。あたらしい地平を切り開くために、地域づくりに取り組むひとたちが、ここにはいる。

 都市で地方で、全国各地で地域づくり、地域再生の取り組みが展開されている。しかし、多くの地域で、苦闘が続く。展望は、容易に見えてこない。地域社会の動揺が続いている。上秋津もけっして、「理想郷」ではない。幾多の課題が山積している。秋津野塾とその挑戦は、未来にわたって続くことになる。

 「行財政運営の効率化」や「地域分権へのシステム転換」などの名のもとに、2005年(平成17年)春をひとつの区切りに、市町村合併計画が進められている。グローバル化が、さらに進展することは不可避である。そうした時代にあっては、地域力やコミュニティの質が試されることになる。活力のある地域、生き残る地域のある一方で、衰退に拍車がかかる地域もでてくるにちがいない。地域の命運を左右するのは、何か。それは、地域の総合力、地域力ではないか、と筆者は考える。コミュニティをととのえ直すことが、地域づくりの原点に据えられなくてはならない。

 上秋津地域における地域づくりは、秋津野の土地のうえに立ち、輸入品ではなく地域に根ざした上秋津「らしい」取り組みが展開されていることを特徴としている。足もとを大切にしながら考え行動する、そう、「秋津野スタンダード」である。
 『マスタープラン』を活かしながら秋津野塾と上秋津のひとたちは今後、どのような地域づくりを進めていくのか、筆者も深い関心を寄せつつ、「小さな地域の大きな挑戦」に関わっていきたいと考えている。